裁判例(大阪高等裁判所平成17年6月9日判決)

<事案の要旨>

本件は、夫である被控訴人が、妻である控訴人に対し、控訴人と被控訴人がそれぞれ2分の1の割合で共有している土地及び建物(以下、併せて「本件不動産」という)について、共有物分割請求権を行使した事案である。

<判決要旨>

1.
共有物分割請求権は、持分権の処分の自由とともに、十分尊重に値する財産上の権利である。
しかし、共有物分割請求権の行使が、当該共有関係の目的、性質等に照らして著しく不合理であり、権利の濫用に当たると認めるべき場合がある。

2.
本件では、以下の諸事情を総合勘案すると、被控訴人による共有物分割請求権の行使は、権利の濫用に当たる。

・本件不動産は、夫婦の実質的共有財産であるから、本来は、離婚の際の財産分与手続にその処理が委ねられるべきものである。

・被控訴人と控訴人は、現在も夫婦であるから、本来、被控訴人には、同居・協力・扶助の義務があり、その一環として、控訴人及び病気の長女Aの居所を確保することも被控訴人の義務に属する。
ところが、被控訴人は、これらの義務を一方的に放棄して、控訴人及び長女Aと別居した上、婚姻費用も少額しか支払わないなど、控訴人を苦境に陥れている。
その上、本件の分割請求が認められて、本件不動産が競売に付されると、控訴人及び長女Aは、本件不動産からの退去を余儀なくされるが、二人の住居を確保した上で、その生計を維持できるほどの分割金が得られるわけでもないし、控訴人は、その年齢や体調からみて、今後、稼働して満足な収入を得ることは困難であるから、経済的にも一層苦境に陥ることになる。

・これに対し、被控訴人は、現在、病気の治療等のため、収入が減少傾向にあり、借入金の返済が徐々に困難になっていることから、負債を整理するため、本件不動産の分割請求をしているものである旨主張している。
しかしながら、被控訴人は、現時点で、金融機関から競売の申立てを受けているわけでもなく、直ちに本件不動産を処分しなければならないような経済状態にあるとは認め難い。
また、上記のような困難な状況にある控訴人や長女Aの強い反対を押し切り、控訴人らを苦境に陥れてまで負債整理を行わなければならない必然性も見出し難い。

3.
よって、被控訴人による共有物分割請求権の行使は、認めることができない(請求を棄却する)。

弁護士西川将史のコメント

共有物分割請求権は、法律で認められている権利ですので、共有者は、原則として、共有物分割請求権を行使することができます。

しかしながら、共有物分割請求権の行使が、共有関係の目的・性質、分割によって請求者が受ける利益と相手方が被る不利益、請求者の意図等の諸般の事情に照らして、著しく不合理である場合(信義誠実の原則に反する場合)には、裁判所が、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めないことがあります。

上記判決は、裁判所が、事案の具体的内容を総合的に勘案した結果、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めなかったものです。

※裁判所が、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めなかった事案は、少なからず存在するので、注意が必要です。