裁判例(東京地方裁判所平成19年1月17日判決)
<事案の要旨>
・原告と被告は、死亡したCの相続人であるところ、遺産分割により、各2分の1の割合で、遺産である土地及び建物(以下、併せて「本件不動産」という)を取得した。
・Cは、生前、本件不動産で公衆浴場を経営していた。
・被告は、Cの生前から、本件不動産に居住し、Cの死亡後は、公衆浴場の経営を引き継いでいるが、認知症に罹患していて、介護を要する状態にある。
・以上の状況において、原告は被告に対し、本件不動産について、共有物分割請求権を行使した。
<判決要旨>
1.
共有物分割請求権は、共有の本質的属性による権利であるが、共有者による共有物分割請求権の行使が信義誠実に反する場合には、権利の濫用として、その権利行使は許されない。
共有物分割請求権の行使が権利濫用に当たるか否かは、共有物分割が実現されることによって原告の受ける利益と被告の被る不利益等の客観的事情のほか、原告が分割請求権を行使する主観的な事情をも考慮して決すべきである。
2.
本件では、以下の諸事情を総合勘案すると、原告による共有物分割請求権の行使は、信義誠実の原則に反するものであり、権利の濫用に当たる。
・共有物分割(代金分割)が実現されると、原告は、本件不動産の持分を現金化することによる経済的な利益を受けるが、現時点において、本件不動産の持分を現金化しなければならない具体的な経済的必要性は見当たらない。
他方、被告は、認知症に罹患している現状において、生活の本拠である本件不動産を失い、また、本件不動産で公衆浴場を営業することができなくなって、当面の生活費や医療費を賄うことが困難になるという具体的な不利益を被ることが見込まれる。
・原告は、Bという者が、原告から了解を得ることなく、本件不動産に居住していると主張するが、Bは、被告の介護と公衆浴場の経営のために本件不動産に居住し、かつ、Bが被告の成年後見人に就任しているのであるから、Bが本件不動産に居住することは、不当な行為ではない。
・被告は、原告にとって、いわば育ての親に当たるにもかかわらず、原告は、今後も、被告の生活の援助をする意思はない旨供述している。
・原告の意図は、被告やBに対する不満を晴らすことにあることが窺われる。
3.
よって、原告による共有物分割請求権の行使は、認めることができない(請求を棄却する)。
弁護士西川将史のコメント
共有物分割請求権は、法律で認められている権利ですので、共有者は、原則として、共有物分割請求権を行使することができます。
しかしながら、共有物分割請求権の行使が、共有関係の目的・性質、分割によって請求者が受ける利益と相手方が被る不利益、請求者の意図等の諸般の事情に照らして、著しく不合理である場合(信義誠実の原則に反する場合)には、裁判所が、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めないことがあります。
上記判決は、裁判所が、事案の具体的内容を総合的に勘案した結果、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めなかったものです。
※裁判所が、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めなかった事案は、少なからず存在するので、注意が必要です。