共有物分割請求とは
各共有者は、いつでも(自由に)共有不動産の分割を請求することができます。
この請求を「共有物分割請求」といいます。
※共有者は、共有不動産を分割しない旨の契約をすることができますが、その期間は5年を超えることができません(この契約は更新することができますが、その期間は更新の時から5年を超えることができません)。
共有物分割請求の手続の流れ
共有者が共有不動産について共有物分割請求をした場合、まずは共有者全員で分割の方法について協議を行い、協議が調わないときは裁判を行うことになります。
分割の方法
共有者が共有不動産について共有物分割請求をした場合、分割の方法として、現物分割、代金分割、全面的価格賠償があります。
「現物分割」は、共有不動産を現実的(物理的)に分割する方法です。
現物分割をすると、各共有者は、分割後の不動産の単独所有者となります。
なお、各共有者の持分と、その共有者が取得する(分割後の)不動産の価格に過不足がある場合には、金銭の支払(価格賠償)で調整することもあります。
「代金分割」は、共有不動産を第三者に売却(任意売却又は競売)して、その代金を分割する方法です。
「全面的価格賠償」は、共有不動産全体を共有者のうちの1人又は数人の所有とし、これらの者が他の共有者に持分の価格を賠償する方法です。
協議による分割の方法
共有者の協議によって共有不動産を分割する場合は、分割の方法に制限はありません(如何なる分割の方法を採用しても差支えありません)。
裁判による分割の方法
裁判による分割のルール
裁判になった場合は、裁判所が、如何なる分割の方法を採用するかを決定します(裁判所は、当事者の申立て(希望)に拘束されません)。
裁判所は、次のルールに従って、如何なる分割の方法を採用するかを決定します。
・裁判所は、原則として「現物分割」を採用します。
・ただし、共有不動産の現物分割が不可能な場合、又は、現物分割をするとその価格を著しく減少させるおそれがある場合は、裁判所は、「代金分割(競売)」又は「全面的価格賠償」を採用することができます。
・このうち、裁判所が「全面的価格賠償」を採用することができるのは、共有不動産を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当と認められ、かつ、その価格が適正に評価され、共有不動産を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる場合に限られます。
※上記のとおり、ルール上は「現物分割」が原則ですが、共有不動産が建物である場合や、1つの建物の敷地である場合は、現実的(物理的)に分割することが不可能なことが多いため、裁判所が「現物分割」を採用することは少ないと言えます。
※裁判所が「代金分割」を採用するときは、共有不動産の「競売」を命じることになります。
(裁判所が「代金分割」を採用するときに、共有不動産の「任意売却」を命じることはありません)
※裁判所が「全面的価格賠償」を採用して、共有不動産を共有者のうちの特定の者に取得させることができるのは、その「特定の者」が共有不動産の取得を希望している場合に限られます。
(共有不動産の取得を希望していない者に、強制的に共有不動産を取得させることはできません)
※裁判所は、「全面的価格賠償」を採用する要件を充たしている場合は、「代金分割」ではなく、「全面的価格賠償」を採用する傾向があります。
(その意味で、裁判所は、「代金分割」よりも「全面的価格賠償」を優先する傾向があります)
共有物分割請求権の行使が認められない場合(権利の濫用)
共有物分割請求権は、法律で認められている権利ですので、共有者は、原則として、共有物分割請求権を行使することができます。
しかしながら、共有物分割請求権の行使が、共有関係の目的・性質、分割によって請求者が受ける利益と相手方が被る不利益、請求者の意図等の諸般の事情に照らして、著しく不合理である場合(信義誠実の原則に反する場合)には、裁判所が、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めないことがあります。
例えば、次のような事案では、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使が認められない可能性があります。
・夫婦が共有する不動産(離婚をすれば財産分与の対象となる不動産)に、妻が居住しており、その妻が病気で経済的に困窮している場合に、別居中の夫が妻に対して共有物分割請求権の行使をする事案
・共有不動産に、病気に罹患している他の共有者が居住しており、請求者には共有不動産を分割(現金化)する具体的な必要性がなく、分割をすれば他の共有者が生活費や医療費に困窮することが見込まれ、かつ、請求者の意図は、他の共有者に対する不満を晴らすことにある場合に、請求者が他の共有者に対して共有物分割請求権の行使をする事案
※裁判所が、共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、その権利行使を認めなかった事案は、少なからず存在するので、注意が必要です。
裁判上の和解
裁判になった場合でも、共有者全員で和解(裁判上の和解)をすれば、その和解に従って共有不動産を分割することになります。
和解によって分割をする場合は、協議による分割と同様に、分割の方法に制限はありません(如何なる分割の方法を採用しても差支えありません)。
※和解が成立すれば裁判は終了します。
実際には、裁判になった場合も、大半が和解によって終了しています。